新潟地方裁判所柏崎支部 昭和26年(ワ)3号 判決
(選定当事者)
原告 佐藤道人 外一名
被告 日本通運株式会社
一、主 文
原告等の請求はいずれも之を棄却する。
訴訟費用は原告等の連帯負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、被告は原告等の就業を妨げてはならない、被告は原告等に対し別紙第一目録賃金表記載の各金員ならびに昭和二十六年四月一日以降一ケ月につき別紙第一目録賃金表記載の各金員をいずれも毎月二十五日限り支払え、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び右金員の支払を求める部分については仮執行の宣言を求め、その請求の原因として述べた事実の要旨は、
(一) 被告会社は東京都に本店を置き柏崎市にある柏崎支店を含め全国に約三百数十個所の支店を有し通運業を営む株式会社である。
(二) 而して原告等は被告会社の従業員で其の柏崎支店に勤務して居たものであるが、原告等の所属する労働組合が被告会社に対して争議行為をしたことを理由として昭和二十五年七月二十八日附を以つて被告会社から原告等はそれぞれ懲戒解雇されたものである。
(三) 原告等は前記懲戒解雇が労働組合第七条の規定に違反する不当労働行為であることを理由として同年十二月十八日附を以つて新潟地方労働委員会(以下新潟地労委という)に対して同法第二十七条第一項の規定により救済の申立をなしたところ同委員会は同条の規定に基き調査及審問の手続をなした結果、原告等の申立を理由あるものと認め昭和二十六年二月二十日「被告会社は、原告等に対する前記解雇をいずれも取消しそれぞれ当時の状態に復帰させなければならない」との趣旨の命令をなし、右命令書の写はいずれも同日原告等及被告会社に交付されたが被告会社は之に対し同年三月六日附を以て中央労働委員会に再審査の申立をなした。
(四) 原告等は新潟地労委の右命令に基き同年二月二十六日原告等が勤務する被告会社柏崎支店に対し団体交渉により右命令の実施を交渉したが被告会社柏崎支店長笠木恭平は原告等の要求を全面的に拒否した。
(五) しかしながら新潟地労委の右命令によつて当事者間に新たな原因が生じ使用者たる被告会社には新潟地労委に対し公法上の義務が生ずると同時に、私法上の効果として原告等に対する前記解雇は取消され原告等は従前の従業員たる地位を囘復したのであつて新潟地労委の右命令は交付の日からその効力を生じ使用者たる被告会社が中央労働委員会に対して再審査の申立をなしてもこれによりて右命令の効力は停止されず、中央労働委員会の命令はいまだ発せられないのであるから、被告会社はその従業員である原告等をしてその職場に復帰せしめ、且原告等に対して解雇の翌日より昭和二十六年三月末日までの各賃金の合計である別紙目録第一表記載の金員ならびに同年四月一日以降の賃金として一ケ月につきそれぞれ別紙目録第一表記載の金員を被告会社就業規則所定の支払日である毎月二十五日限り支払うべき義務がある。
(六) よつて原告等は右新潟地労委の命令により囘復したところの被告会社の従業員たる地位に基いて被告会社に対しそれぞれ右義務の履行を求めるため本訴に及んだものであると述べた。(立証省略)
被告代理人は主文同旨の判決を求めその答弁の要旨は、
(一) 原告等主張の事実中一、二、三の事実及び、地労委の命令が交付の日からその効力を生じこれに対して再審査申立をしても命令の効力は停止されないこと、中央労働委員会の命令がいまだ発せられて居ないこと及び原告等の解雇直前の賃金の額、及び就業規則による賃金支払日がいずれも原告等主張の通りであることは認めるが、その余はいずれも否認する。
(二)(1) 新潟地労委の本件命令は行政命令であつて原告等主張の如き公法上の効力は別として私法上の効力を生ずるものではない。
(2) しかも右命令は原告等主張の如き内容のものでその履行方法の具体的内容を明示していないから中央労働委員会規則第四十三条に違反し無効のものである。
(3) 仮りに右命令が有効であるとしても其の主文に明示してある範囲に止まり、賃金支払の点については何等触れていないから此の点について効力を生ずべきいわれはない。原告等は右命令の趣旨、範囲につき甲第二号証、証明書を以つて賃金支払を含むものと主張するが、甲第二号証は一つの意見解釈に過ぎず素より救済命令そのもの、若くは命令内容の補正をなすものでもない。しかし仮りに賃金についても何等かの効力があるとしても、原告等は解雇当時より引続き争議行為をなしているから其の期間中の賃金を支払う義務はない、と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告等主張の一、二、三の各事実は当事者間に争がない。
よつて新潟地労委の本件命令によつて原告等主張の如き私法上の効果を生ずるか否かの争点につき按ずるに、新潟地労委が労働組合法第二十七条第二項の規定によつて発した命令は行政処分として使用者たる被告会社に対し命じたものであるから、被告会社がこれに服従する公法上の義務のみが生ずるのであつて何等私法上の関係が生ずるものではない。使用者(被告会社)と労働者たる原告等との間には公法上も私法上の法律関係も生じないものと解するを相当とする。使用者が右命令に服従しない場合は、行政代執行法第二条所定の要件を具備する場合に限り当該委員会に於てその代執行をなすことが出来るが、そうではない場合には使用者は労働組合法第二十八条第三十二条所定の各違反について同各条所定の刑罰等に処せらるることによつて間接的に強制されるに過ぎないのである。
労働者が不当労働行為に対する私法上の救済を求めるためには別に同法第二十七条第九項後段により裁判所に対して使用者を被告として解雇無効、又は従業員たる地位の確認を求め若しくはこれに伴い解雇無効の訴を提起する民事訴訟法上の手続があるのである。
してみると新潟地労委の本件命令により原告等と被告会社との間に原告等に対する本件解雇が取消され原告等が従前の従業員たる地位を囘復したとし之に基く原告等の本訴請求はその余の争点を判断するまでもなく、理由なきをもつて原告等の請求はいずれも棄却すべきものとして訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 武田益蔵)
(別紙目録省略)